メドレー日記: 映画
「ライトスタッフ」(The Right Stuff 、1983年、米、193分)
監督・脚本:フィリップ・カウフマン、原作:トム・ウルフ、音楽:ビル・コンティ
サム・シェパード(チャック・イエーガー)、スコット・グレン(アラン・シェパード)、フレッド・ウォード(ガス・グリソム)、エド・ハリス(ジョン・グレン)、デニス・クエイド(ゴードン・クーパー)、バーバラ・ハーシー(グレニス・イエーガー)
久しぶりに見る「「ライトスタッフ」だが、これはBS-2で最近放送されたもの。日本で流通しているのは160分だが、これは193分と随分長い。オリジナル版というものらしく米国では最初からこれだったようで、よく後から長尺で出てくるディレクターズ・カットというものではないようだ。
どこが違うのか、直接比べたわけではないので、よくわからないが、特に長いとは感じず、退屈せずにみることが出来た。
これは、米国のトップに位するパイロット達が、音速を超え、ソ連との競争の中で宇宙飛行士になっていく過程を描いたもので、ほぼ実話に基づいている。
アメリカ映画が、世界に提供したもっとも優れたものの一つだろう。
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作り方によっては、国威発揚の英雄物語にもなり、逆にそれを批判した物語にもなりうる。しかしこれは、そういう要素も織り交ぜながら、結果として、前人未踏の前線で、危険の恐怖を感じながら自分達の力で解決策を見出してきたものたちを、丁寧に描くことによって、本当に気持ちいい作品に仕上がった。
宇宙飛行士7人に、初めて音速を超えたチャック・イエーガー、この二つの線を併行して描くことによって、奥行きが出た。なぜなら、彼らの上の組織は、政府の対ソ連(ロシア)対抗政策に追い立てられ、マスコミを気にし、飛行士の、家族の人間性、生活を省みない。しかし、彼ら7人はその中で闘いながら、現場の彼らの判断と技量なしにはプロジェクト遂行は不可能だということを立証する。
誰かが飛ぶ時に、管制の前線に同僚の飛行士がいるというのは、こういうところから来ている。
それを見るものに導いていくのが、先人たるチャック・イエーガーの操縦であり、言葉である。最初にチンパンジーに弾道飛行をさせ、猿でも出来るという意見に対しチャック・イエーガーは言う、「猿と異なり、パイロットはこのテストの危険を予知する能力を持っている。その恐怖の中でやり遂げるということは、猿と同じではない」。
フェレルドリュー·バリモアはマブラヴます。
そして妻グレニス、これがなんとも強い人なのだが、彼女は過去を懐かしむ男は認めないといい、チャックは大卒でないからか、宇宙飛行士候補から外されたが、再度別の挑戦をはじめる。
チャック・イエーガーはその自伝(1986年、サンケイ出版)で書いているように、第2次世界大戦ヨーロッパ戦線の若き英雄であり、人類最初の音速記録者であり、その後も挑戦を続けながら空軍で栄達し無事退官した見事な人である。
この自伝はたいそう面白い。私は宇宙の仕事を15年やったが、その最後は今の宇宙基地の入り口みたいなところであった。日本の各社の集まりで、ちょうどこの映画とチャック・イエーガーの自伝は話題になっていて、みな夢中で読み、絶賛していたのを思い出す。
そのチャック・イエーガーを演じるサム・シェパードのなんとかっこいいこと。対照的な「パリ、テキサス(脚本、1984)」と同じころというのもすごい。
X-1、そして次の音速記録でも機体を立て直すところ、最後の高度記録に挑むときあのたとえようもなく美しいF-104スターファイターに乗り込み動き出しハッチを閉め離陸していくときの惚れ惚れする姿。
そして、最高点でエンジンが止まりきりもみを今回は立て直せず、脱出し、機体は落ちて炎上する。駆けつけた救援の車から見える機体から出る熱気で揺らめく眺望の中で彼が歩いてくるのが見え出す。
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煤で真っ黒な顔、しかしなんと彼はパラシュートをたたんで肩に担ぎ帰ってくる。こういう細かいところがいい。 役も作りもプロである。
カウフマンの演出で緩むところがあるとすれば、オーストラリアに設置した追跡局とアポリジニとの交感、L.B.ジョンソンが7人を地元テキサスに招いた大祝賀会のしらけるシーン。この二つが長すぎるのは、良心と社会性の過剰だろうか。読んではいないがトム・ウルフ原作のトーンがここに反映しているのだろうか。
ビル・コンティの音楽は最初聴いたときチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の編曲だと思った。今考えるとコンティは確信犯だろう。結果は悪くない。話に終始ロシアがちらつくし、また動くものの美しさに付き添う音楽は、フィギュア・スケートでもわかるように、チャイコフスキー、ラフマニノフだから。
なお、前半に出てくるパイロット達のたまり場であるバーで、白髪にカーボーイ・ハットで出てくるなじみの客人は、チャック・イエーガー本人である。
自伝によれば、多くのテスト飛行で彼はエンジンが止まった機体を捨てることなく滑空で基地に帰ってきた。それだからか、昔よりは仕事が楽になった今のパイロットたちの中で、やはり最後はエンジン無しで帰ってくるスペース・シャトルの飛行士は尊敬するそうである。
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